いきなりですが、このグラフ、なんだかわかりますか?
いまから30年後、2050年の薬剤耐性による死因予測です
これによると、2013年にはAMR(薬剤耐性)による死者は70万人、がんによる死者は820万人
ところが薬剤耐性に対して何も対策をとらないと30年後には、AMR(薬剤耐性)による死者が1000万人になるとの予測です
つまり、このままだと30年後には薬剤耐性による死者が、2013年のがんによる死者を上回る、ということです
このままいくと、抗菌薬のなかった時代に逆戻りしてしまうと言われています
主な原因は、抗菌薬の乱用です
実はその一つの要因が、動物への抗菌薬の投与が問題となっています
え? と思いますよね
動物への抗菌剤投与はそんなに多いの?
実は、日本全体で使用されている抗菌剤の約50%が動物向けのものなんです
病院で抗菌薬を処方されるシチュエーションは。。。。
皮膚病
膀胱炎
歯肉炎・歯周病
喧嘩による怪我
術後の抗菌薬
下痢
猫の風邪 などなど
さらに、2019年の国内の報告では、
フルオロキノロンという抗菌薬に耐性を持つ大腸菌の死者が増えているという報告があります
このフルオロキノロン、動物用医薬品(抗菌薬)では、
飲み薬では、バイトリル・ビクタス・ゼナキル・ウェルメイト
点耳薬・点眼薬でも、ロメワン
結構ポピュラーなものです
フルオロキノロンの特徴は、広範囲に効くのに1日1回の投与で良いところです
それで? なんで、ヒトの薬剤耐性に関係するのか?
それは単純です
動物への抗菌薬投与で、動物の体内で耐性菌が発生
排泄物や皮膚・唾液・鼻汁を介して、飼い主さんへ。。。。
これで耐性菌の獲得です(本当はもっと複雑ですが、だいたいこんな感じです)
薬剤耐性ってそんなに簡単に起こらないんじゃないの?
耐性菌が出来るのには、実はあまり時間がかかりません。
薬剤耐性のセミナーで見せてもらった動画がyoutubeにありました。
大腸菌が薬剤耐性を持つまでの動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=AU4SiUuaKY4
この実験では、通常の1000倍の強度の薬剤耐性をもつまで10日間だったという結果でした。
意外に早いですよね。。。。
皮膚病のお薬として、1日2回14日分で処方されたお薬が、きちんと飲めずに残っていませんか?
残った薬を使ったりしていませんか?
薬剤耐性が動物の体内で起こっているとしたら?
薬剤耐性に対する当院での取り組み
抗菌薬の適正使用に努めます
広域に効果のある抗菌薬(特にフルオロキノロン系抗菌薬)を使用しない
抗菌薬を使用する際には、グラム染色や細菌培養検査を実施
抗菌薬以外で治療できるものについては、抗菌薬を使用しない
具体的には
皮膚病には洗浄・シャンプー・消毒
下痢の場合は、下痢止めと整腸剤(おもに動物用)
猫の鼻炎には、漢方やインターフェロン・サプリメント
膀胱炎に対しては、消炎鎮痛薬
抗菌薬を使用する場合は、細菌培養検査を実施します
避妊手術・去勢手術の術後抗菌薬は、使用を中止
消毒でも出来る限り耐性ができないもの。。。
以前紹介した、リバイオエピまたはマイクロシンを中心に使用しています
https://www.otake-ah.com/column/115/
1回の注射で2週間効果が持続する注射も、薬剤耐性で問題になっています
当院では、出来る限り使用しないようにしています
飼い主さんへのお願い
できるかぎり、動物病院で処方されたお薬は途中で中止せず、処方どおりに飲ませるようお願いいたいます
また、継続使用が必要な場合もあります
その場合は、完全に飲み切る前に継続診察に来ていただきますようお願いいたします
また、皮膚病治療に関しては、洗浄・シャンプーをメインに考えています
シャンプーは、2・3日に1回と頻回のことも多く、飼い主さんのマンパワーが必要です
どうしてもシャンプーができない場合は、抗菌薬を使用しますが
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
以下、今回のコラムで参考にした資料・webサイトです
厚生労働省「薬剤耐性の取り組み」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189799.pdf
国立国際医療研究センター「薬剤耐性の被害調査」
http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20191205_press.pdf